PTブログ:ハラプリの5分で臨床推論を立てよ⑤
みなさん、こんにちは!PTハラプリです。
運動学や解剖学をもとに患者を診る、そこから逸脱しないことが大切と考えます。
最近、痛みについて考えることが多いです。
痛みは、局所から考えることが第一歩です。
始めから「アライメントがどうこう」と全体で考えるというのはダメです。論点が「もやっと」してしまうからです。
私はまず、「痛みを出している場所に何があるか」考えます。
筋、靭帯、皮膚、血管、神経、骨、関節軟骨・・・、いろいろ考えます。
痛みも、「ズキン(鋭い痛み)」なのか「じーん(鈍痛)」、「重だるい」、「ずきずき」なのか、いろいろ種類があります。
また、安静時に痛むのか、動いているときに痛むのか、動作時であればどういう動作で痛むのか、それによって、痛みを出している組織を推察し、推論をたてます。
臨床推論を確かめるために、詳しい評価をします。
まずは患者さんの話をよく聞いて、臨床推論を立てて、アプローチすることが大事です。
【症例】
70歳 男性。
脊柱管狭窄症による腰痛、左下肢痛、しびれがあった。
L4/5TLIF術後、術前の腰痛、下肢痛はよくなった。
術後、リハビリを進めるうちに、左のPSIS周囲の痛みが出てきた。
起き上がりや、ベッドへ寝るときだけでなく、寝返りや背臥位で下肢を動かすときも「ズキン」という鋭いいたみが起こる。
歩行時は左立脚後期で同じような痛みがある。
担当医からは、回診時に「それは、手術後だから。レントゲンでは手術はうまくいってるよ。時間がたてば治るよ」と、5秒で言われてしまっている。
術後の新しい痛みなので、患者さんは、ものすごく気になっている。
「こんな痛みがあるのに、おれは退院しなきゃいけないのか」と、ちょっとへこんでいる。
・・・・・・さて。
痛みでリハが進まない。いやはや、私には1単位しかない!!!
5分で臨床仮設をたて、評価し、トレーニングを指導してください。
【臨床仮説】
① PSISあたりに痛みがあるというからには、まずは仙腸関節を疑ってみる
② 下位腰椎の固定術を施行され、かつ、硬性コルセット装着している。
仮に股関節の可動域制限があれば、動作時や歩行時の可動性を、仙腸関節で補っている可能性がある。
これによる仙腸関節の「緩み(もしくは不安定性の増加)」が生じた。そのことで、動作時に腸腰靭帯への伸長ストレスが生じ、痛む。
症例は、手術後の歩行量が増えてくる時期であることからも納得がいく。
③ 仙腸関節の動きは、大きく分けて「うなづき」と「起き上がり」である。
症例の場合、どちらの動きが痛みを出しているのかが問題となる。
④ 歩行時、症例は左立脚後期、特にHOで疼痛が起こるという。
この時、股関節は伸展、骨盤は前方傾斜する。
それに対して体幹の前傾が少ない(すなわち直立保持)のであれば、仙骨は起き上がり運動を起こす可能性がある。
⑤ 痛みの発生の原因が、仙骨の「起き上がり運動方向への不安定性」への対応、ということと考えてみる。
⑥ 仙骨の起き上がり抑制として、多裂筋を鍛えれば痛みが減るのではないか?
【評価】
・股関節は屈曲、内旋方向の可動域制限がある。
・座位で骨盤の前後傾を行わせ、触診で不安定性を確認したいが、術直後なのでできない。
・触診、視診では、多裂筋部は左で痩せている。ついでに大殿筋も左が痩せている。
・弾性包帯をASISの高さで、骨盤周囲にぐるぐる巻く。症例は「脚を挙げた時の痛みが減った、歩きやすくなった」とのことだった。
・試みに、痛みの少ない範囲で、多裂筋の筋トレを5分行ったところ、痛みがVAS80mm⇒30mmと、減弱した。
・臨床推論と比べても、違和感はない。
【トレーニング】
①痛みが強いとき、痛みがひどくならない範囲で、下記を行う
⇒腹式呼吸 ×10回 ×3セット

②痛みが落ち着いたら、下記の運動を合わせて行う
⇒臥位でのお尻上げ(多裂筋強化)
*この運動は、膝の伸展と骨盤挙上を行う練習です。
多裂筋を鍛えるときに、ハラプリがよく使います。
痛みを出しにくいので、有用です。
負荷量を増すときには、ポールを遠位にもってきます。
*本来ならば多裂筋を鍛えたかったが、症例は痛みがVAS80mmと強く、不安感があったので、まずは腹式呼吸で胸腰筋膜の緊張を高めることでの仙腸関節の安定化を図るようなアプローチから開始した。
*ブリッジなどの方法では骨盤後傾が生じる(固定術後は行いたくない)可能性もあるため、②の方法を選択した。
*「コルセットをしっかり下にさげ、下のベルトをシッカリ閉める」でもよいかも。
メモ:
PSIS・・・上後腸骨棘
ASIS・・・上前腸骨棘
*(「ハラプリの5分で臨床推論を立てよ」では、臨床でよくみられる症例をデフォルメしながら書いてます。)
ハラプリの5分で臨床推論を立てよ⑤<終わり>