PTブログ:ハラプリの5分で臨床推論を立てよ⑪
運動学や解剖学をもとに患者を診る、そこから逸脱しないことが大切だと考えています。
「膝が痛い」という症例は、よく遭遇します。
整形外科医にサポーターを処方されたり、ヒアルロン酸を注射されたりして、それなりによくはなるのですが、結局「それなり」のまま、経過観察となっている方も多く見受けます。
PTとしても、腕の見せ所です。
膝の痛みを改善するヒントは、患者さんと、そして解剖学の本の中にあります。
【症例】
高齢の女性。
施設内では車いすを使っており、平行棒で歩く練習をするレベルである。
もともと左膝の痛みを訴え、サポーターをしたり、ホットパックをしたり、注射をしたり、だましだまし歩いていたが・・・・・。
(後輩。筋トレマニアの九州男児。趣味:筋トレ。あだ名:ヘビトカゲ)
「ハラプリさーん!!○○さんですけど、最近膝を痛がっちゃって、ますます歩けなくなってきたんですたーい。
おいどん、膝の筋力低下だと思って、大腿四頭筋の筋トレ、がんがんやってもらったですたい!
ばってん、痛みが悪化したでごわす~!!」
(声がでか・・・・・)
えっと、どこら辺が痛いのかな?
どんな時に、痛みを訴えている?
(狭い訓練室なんだから、普通の声のボリュームで言ってくれると嬉しいな~)
膝の痛みの原因を、大腿四頭筋の筋力低下による膝の不安定性と推論し、四頭筋の筋力トレーニングを行ったわけね?
評価内容をもっと詳しく。
・ROM:膝伸展 -5/-5
・軽度の内半変形あり。
・筋力:膝伸展4/4。
・整形学的検査では引き出し兆候(drawer’s sign)が前方、後方とも陰性。
・他の整形外科的テストは行わなかったですたーい。
軽く膝伸展の筋力低下があったので、重錘を付けて、筋トレをどんどんやらせたでごわす。
したら、痛みが増したのでありんす。
(何で、最後だけ舞妓はん・・・・・?)
平行棒内で歩いてもらうと、左下肢の荷重時は、両上肢の支えと身体の右変位により荷重を減らしている。明らかに左荷重を避けている。
歩行中、左膝関節は常に軽度屈曲位で、床を擦るように歩いている。
座位での膝伸展を行ってもらうと、可動域全体で伸展可能であるのだが、膝を伸ばすだけではなくて、下肢全体を持ち上げてしまうような現象がみられる。
そして、ヘビトカゲ君の膝伸展の筋力強化で痛みが増悪したしたということは・・・・・。
さて。
ヘビトカゲ君というニューキャラが出てきて、今後の活躍を期待したいと思うワシ。
しかし、こんなに声のでかい、筋肉マニアのマッチョPTが側にいたら、私の繊細な頭脳までが筋肉化してしまう!!
これは、人類の損失である!!(※個人の感想です)
五分で臨床仮説をたて、評価し、トレーニングを指導して、さっさとここから逃げ出したいんですた~い!!
【臨床推論】
①ヘビトカゲ君の評価では大雑把すぎるが、まあ、まずは、痛みの部位について深堀してみようと思う。
②痛み部位は「左の膝蓋骨の下部周囲」である。(しかし大雑把な評価である。)
解剖学の本を広げ、痛み組織を選択し、諸動作からターゲットを絞って行こう。
③「膝蓋骨の下部周囲」であるから、a膝蓋腱、b膝蓋支帯、c膝蓋下脂肪体、d半月板あたりが考えられる。
このa~dに生じる痛みは、どんな種類の痛みであろうか?
a~cは伸長痛、dは圧迫によるメカニカルストレスであると考えられる。
④では、症例に生じた痛みは、a~dのどれなのか。
症例の動作を見てゆこう。
症例は、膝関節を軽度屈曲させて歩いている。
膝の軽度屈曲位は、四頭筋の働きが強くなり、かつ膝関節組織前面が伸長される肢位である。(この場合、痛みの原因はa~cのいずれかとなる。)
⑤しかしながら、症例は上肢で強く支え、荷重(圧迫によるメカニカルストレス)を避けている。(この場合、dが有力である。)
⑤症例の動作が、伸長痛を避けているのか、圧迫によるメカニカルストレスを避けているのか、どちらか判断できないので、もう少し情報を集めようと思う。
【評価】
・ROM、筋力、膝関節不安定性は、ヘビトカゲ君の報告の通りだった。
・座位で、膝関節屈曲90度での膝のアライメントを見てみよう。
なかなか膝が出てこない・・・・。厚手のズボンに、ズボン下に、サポーターに、長靴下に、レッグウォーマーもしている・・・・。
すみませんね、ちょっと外しますよ。
おっと。脛骨が後方偏移している。しかも、左の方がその傾向が強い。
・触診では、左のハムストリングスの方が張っている感じで、緊張が強い。
・仙腸関節の問題はない。
(なぜ仙腸関節を評価したかというと、ハムストリングスのが緊張する場合、可能性として、仙腸関節の緩みが考えられたためである。症例には、仙腸関節の問題はないと考える。)

<ハラプリのハラプリポイント>
脛骨の後方変位を見る時は、私は腰かけ座位で行うことが多いです。
膝関節屈曲90度で、膝蓋骨と脛骨粗面の位置で見ます。
後方偏移がある場合は、脛骨粗面が「凹んで」見えます。脛骨の後方偏移という現象はいろいろな原因で起こりますが、ハムストリングスが緊張している場合が多いです。
それは、ハムが緊張し脛骨を後方に偏移させることで、PCLと膝蓋支帯が伸長され「膝関節が安定する」からです。
そして膝関節支帯は広筋群とつながっています。
<次回に続く!!>