5分で臨床推論

第四回:長く座ると、右の鼠径部が痛くなる

PTブログ:ハラプリの5分で臨床推論を立てよ④

読んでくださってありがとうございます!
PTハラプリです。

日々、「運動学」と「解剖学」をもとに(あたりまえのことですが)、患者さんの症状を突き詰めて考えることを心がけています。

患者さんを目の前にして、私が一番信頼している教科書は「現象」です。
現象は嘘をつきません。

現象を客観的に、素直にとらえることが大事です。
患者さんの抱えている問題点は、実は、多くはありません。

私は「PTの世界では、知識や手技が先行し過ぎている」と考えます。

それに頼ってしまい、「深く考えること」を止めてしまわないで欲しいのです。

運動学、解剖学をもとに症状をとらえると、「すっきり」しますが、
午前中の診療だけで、頭を使い過ぎて、ぐったりすることも多いです。

(なお、このブログは事実をもとにしておりますが、フィクションです。)

【症例】

48歳の男性。

座位でいると、右鼠径部に違和感が出てくる。
長時間椅子に座っているとズキンと痛むようになる。
座面が高いイスでは、そんなに痛くならない。
しゃがみ込むと痛い。

痛みが起きたのは20代で、ラグビーの試合中にタックルされ、相手の膝が鼠径部に直撃してからである。
しばらくは脚が上がらなかったとのこと。

明確な診断はない。

痛みの出る部位を詳しく聞くと、ASISの内側あたりであるという。

ASISとは?・・・・Anterior superior iliac spine 上前腸骨棘のこと。

また、左に重心を移して右臀部を浮かして座ると、少し楽だという。

・・・・・さて。

症例は職場の事務職員で、最近は痛みで休みがちだ。

仕事も滞っていて職員も少ない。

彼の仕事も、実質、私がやらなくてはならないのである!!なんということだ!!

非常に困るので、5分で臨床仮説を立て、評価し、トレーニングを提示せよ!!

【臨床仮説】

①痛みの出方から、右鼠径部へのメカニカルストレスによる痛みで、大腿骨と鼠経靭帯の間に軟部組織が挟まれる「インピンジメント」の可能性がある。

②椅子が高いと楽、ということや、しゃがみ込みで痛い、ということも、この仮説を裏付けている

③鼠径靭帯と大腿骨の近づき方として、

A) 大腿骨が鼠径部に近づく
B) 腸骨(鼠経靭帯が付着)の変位

が考えられる。

④しゃがみ込むと痛いというのであれば、仮説としてはAで十分であるが。。。

⑤座ったときに痛みが出る、右を浮かせるとラク、というのがヒントである。

⑥ASISの内側は、鼠経靭帯の外側である。それが大腿骨と近づくのは腸骨が外転(開く)した状態。つまり座位での骨盤荷重による、仙腸関節の離開が問題である可能性がある。

⑦ラグビーによる負傷で、右仙腸関節関節の不安定性が出ている状態で、同部の痛みが出ているということは・・・・・。

➡➡➡➡仙腸関節の安定性を高めることにより、痛みが良くならないだろうか??

「腹横筋による仙腸関節の安定化」

【評価】

・仙腸関節の動揺は、座位で骨盤の前後傾をさせた時に、同部の触診でも評価できる。
症例は、著明な動揺は確認できなかった。

・仙腸関節の安定性を高める筋として、腹横筋や、内腹斜筋などがある。(他にも、前方からの安定化筋⇒大腰筋、後方からの安定化筋⇒多裂筋などがある)。

腹横筋とは?
外腹斜筋・内腹斜筋とともに働いて腹腔内臓器を圧迫して、腹圧を高めます。
腹圧を高めて、排便・排尿・嘔吐・くしゃみ・咳・分娩を補助します。
しかし、腹横筋は脊柱の運動には関与しません。
下位肋骨を下に引き、腹腔内圧を拡大させます。

内腹斜筋とは?
外腹斜筋に覆われており、腹横筋の浅層に位置します。
腹圧を高め、排便・排尿・嘔吐・くしゃみ・咳・分娩を補助します。
腹部の引き締めや正しい姿勢維持に貢献します。
体幹の屈曲・側屈・同側回旋・腹腔内圧拡大の働きがあります。

カラー図解「筋肉のしくみ・はたらき辞典」より
石井直方監修 左明・山口典孝共著
西東社

・同部の視診、触診では右下腹部の「痩せ」「柔らかさ」などの左右差があった。

・試みに「骨盤ベルト」を貸し出して試してもらったところ、「ずいぶん楽」とのことであった。

【トレーニング】

*腸骨の外転(仙腸関節の離開)を防ぐために、腹横筋を鍛える。
①腹式呼吸 × 10回 × 3セット  /日

腹式呼吸・座位の自主トレイラスト腹式呼吸

*上記を1-2週間行ってもらい、効果をみる。

*ドローイン(腹部引き込み運動)でもいいかも。

*しかしながら、仙腸関節を安定化させる筋には、腹斜筋もある。内腹斜筋の方が「厚み」もあり、効率がいいかもしれない。

その場合は、下記の運動を行わせたい。(臥位での骨盤後傾)

骨盤後継の自主トレイラスト骨盤後継

*(当サイトのイラストは、理学療法士・作業療法士・スポーツトレーナー等の専門職が、自主トレーニング指導のために利用することを目的としています。
正しい利用がされない場合に生じたトラブルに関しては、一切責任を負いかねます。)

ハラプリの5分で臨床推論を立てよ④<終わり>

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