毎度おなじみの、ハラプリです。
解剖学と運動学から患者をみる、そこから逸脱しないことを心がけて、今日もお仕事です。
(なお、このブログは事実をもとにしておりますが、フィクションです。)
Contents
【症例】
45歳女性。
マラソンを趣味にしている。
以前から、走行時に、右大腿外側に違和感を感じていたが、最近、痛みが強くなり走ることができなくなったという。
わたし、どうしたらいいですのん?
ダイエットのために走ってるのにい❤
また体重が増えちゃう、うえーん」
当施設に働くナースさん(本名:フジ山ミネ子)である。
マラソンを始めてから、なんとなくいい感じにシェイプアップしてきていたのだが・・・。
- 痛みの部位を詳しく見てゆくと、右大腿骨外側上顆周囲であった。
- 触診では、外側上顆、外側広筋、大腿筋膜張筋、大殿筋に圧痛があった。
- 視診では右内側広筋の委縮を認めた。
- 膝蓋骨の外側偏移(flog’s eye)があった。
- 膝関節伸展筋力検査では右にextension lag があった。
整形外科を受診してⅩ線写真をとったが、骨には異常がなく、診断は「腸脛靭帯炎」で、湿布を処方されたとのこと。
5分で臨床推論を立て、評価し、トレーニング指導をして、この場を離脱しないと、な、何かやばいことになりそうな悪寒が・・・・。
【臨床推論】
①話を聞いていると、腸脛靭帯炎であることは、間違いなさそうだ。
では、どのようにその痛みを落としたらいいだろうか?
腸脛靭帯は大腿の外側面を下降し、大腿骨外側上顆を超えて脛骨粗面外側(gerdy結節)に付く。
ランニング動作では、膝の素早い屈伸を繰り返す。この繰り返しが腸脛靭帯と大腿骨外側上顆との間に大きな摩擦を起こし、腸脛靭帯深層の軟部組織に炎症を生じる。
この軟部組織は、腸脛靭帯や外側広筋に囲まれており、痛みを出しやすい。
②腸脛靭帯炎では、大腿筋膜(腸脛靭帯は大腿筋膜の外側部の最も厚い部分)、およびそれに包まれている「外側広筋」の緊張も高まっている場合が多い。
③したがって、痛みを落とすためには、このような組織の筋緊張を落とすためのリラクゼーションを行わなければならないであろう。
(症例がマッサージを望むのも、マッサージによる疼痛への効果が高いということか・・・・・・。)
④また、内側広筋が委縮しており、外側広筋の筋緊張が高いので、膝伸展最終伸展域では膝蓋骨が外側偏移する。膝蓋骨が中央に位置しないので、extension lagがあるのもうなずける。
⑤「ランニングの着地の際に生じる衝撃を吸収し、膝関節の動きをまかなう」ことが可能となるパワーを付けなければ、リラクゼーションを行ったとしても、再発するかもしれない。
何のパワーが必要だろうか?
⑦いずれにせよ、腸脛靭帯・大腿筋膜張筋の状態を確かめてみよう。
さて、どんなことをするか??
腸脛靭帯と大腿筋膜張筋の緊張や、筋の短縮を確認するためのテストがある・・・。それは、ずばり!
Ober’s test(オーバー・テスト)
患側下肢を上にした側臥位をとらせ、非検査側の下肢は屈曲させ、検査側股関節を外転した状態とする。
そこから股関節を他動的に内転させ、非検査側の下肢と接触できるかを見る。
接触できなければ陽性である。
検者は骨盤で代償しないように、骨盤をしっかりと押さえる必要がある。
【評価】
・Ober’s testを行ってみたところ、結果は陽性であった。
・外側広筋周囲のセルフマッサージと、内側広筋の筋力強化(5分程。休み休み行った)を行ってみたところ、ランニング時の即時的な疼痛軽減が見られた。
【臨床推論リセット】
①Ober’s testの結果より、腸脛靭帯・大腿筋膜張筋の緊張は亢進していることがわかった。
②症例は、Flog’s eye(膝蓋骨が外側に引かれている)も認められるため、外側広筋の緊張亢進もある
③これらのことより、疼痛の原因は、「腸脛靭帯深層の軟部組織」への圧縮ストレスであると考えられる。
④同部へのマッサージにより疼痛が軽減したのは、軟部組織への圧縮ストレスが減少したからであると思われる。
⑤内側広筋の筋力強化を行うと、ランニング時の疼痛軽減が見られたことは、どう考えたら良いだろうか?
⑥内側広筋の筋力訓練の結果、膝蓋骨のアライメントが即時的に改善し、膝伸展最終可動域でのパワーが向上したため、着地の際に生じる衝撃を吸収できたのではないか、と思われる。
⑦以上のように考えると、概ね「すっきり」する。
⑧では、セルフマッサージと内側広筋筋トレとを指導し、様子を見てみよう。
【トレーニング】
#1 外側広筋や腸脛靭帯などのセルフマッサージ
#2 内側広筋の筋トレ
座位でボールを膝の間に挟み、ボールを圧迫しながら膝伸展
3秒キープ×30回/日

(内側広筋は股関節内転筋と機能的つながりがあるため、股内転筋と同時に筋トレする)

・ひとつ課題がある。
腸脛靭帯は、大腿筋膜張筋はもちろんのこと、殿筋筋膜とのつながりから、大殿筋や中殿筋との機能的関連が深い。
殿筋が絡む股関節機能も、詳しく評価するべきだったかもしれない。
お礼に、すっご美味しい、食べ放題の焼肉屋さんがあるから、いっしょに行きましょ~♥
あと、ランニングフォームを改造するから、おしえてねん♥」
軽やかに、笑顔で走り去るミネ子・・・・。
ここで、賢明なハラプリは気付いた。
ミネ子は、結構、toe inで走っているのであった!
ここでもう一つ、臨床仮説とトレーニングがでてくるのであるが・・・・・、さあ、それは何なのか。
みなさんで考えてみてくださいね♥
<終わり>