5分で臨床推論

第九回:手関節背屈で体重を掛けると痛い

PTブログ:ハラプリの5分で臨床推論を立てよ⑨

風邪などひいていないですか?
僕はおじさんなだけで元気で~す。
(*’▽’)/
PTハラプリです。

解剖学と運動学から患者を診ることを心掛けています。そこから逸脱すると、論点が「もやっと」してしまうからです。

PTですが、オーダーさえあれば、脚や腰だけでなく、肩、手、肘、指、頸、便秘、嚥下などなど、何でもやります。♪

(*なお、このブログでのお話は、フィクションです。臨床でよくみられる症例をデフォルメしながら書いてます。)

【症例】

75歳男性。

最近、脚腰が弱くなってきたことを自覚し、機能訓練特化型デイに通っている。

いつの頃からか、左手関節に痛みを感じるようになった。

たとえば、手をついて椅子から立ち上がろうとした時など、左手関節の背側がズキンと痛む。

「痛くて、よう立ち上がれへんわ。手のつき方によっては痛くないんですやん、どないなっとんのやろ?」

変な関西弁をしゃべるおじさんだ。

痛みが出るのは、手関節背屈位で荷重したとき。

場所は左手関節の内側、ちょうど手根骨の大菱形骨あたり。

母指屈曲位で手をつくと痛みがあるが、しかし、母指を外転・伸展位で荷重すると痛くないという。

さて。

「ここの施設のイス、妙に低いやろ?手ぇつかんと立てへんねん。新しいのこうてくれへんかチミ?訴えたるでえ~」

そんなことを言われたってなあ・・・・・・。

よっしゃ。四角い仁鶴がまあるくおさめたるでえ!

五分で臨床仮説をたて、評価し、トレーニングを指導してください!!

【臨床推論】

①手関節荷重での痛みであることから、「骨性の過度な圧迫ストレス」が、痛みの原因である可能性がある。

②しかし、なぜ症例は手をついての立ち上がりで、骨性のストレスが生じるのだろう?

手根骨のアライメント不良があるのではないだろうか?

③では、アライメント不良が生じている具体的な場所はどこか。

 手関節近位横アーチが疑わしい。

手関節の横アーチとは?

なぜ手関節近位横アーチが疑わしいのか。

母指の屈曲位での荷重で痛みが出て、母指の外転・伸展位では出ないからである。

つまり、指を屈曲肢位にすることで母指球の伸長がなくなり(=筋が緩み)、アライメントが崩れ、痛みが出たと考える。

④母指球の状態を診て、萎縮があれば、可能性がありそうだ。

なんか足りないとこもある気がするが、これはこれで、論理的にはすっきりしており、この見方で進めてみる。

〈PTハラプリのハラプリポイント〉

手関節運動(撓屈/尺屈、掌屈/背屈)における、月状骨、有頭骨の働きは重要と考えられる。

手関節のスムースな動きは、ここがポイントとなる(楕円形の動きをする)。

月状骨には筋付着がなく、PTが得意な足関節に例えると「距骨」のような働きといえるので、この骨のアライメントは重要である。

また有頭骨は、上図のように、アーチの「かなめ石」の役割がある。

有頭骨に付着する筋は、母指内転筋の斜頭である。

母指内転筋とは?

支配神経:尺側神経
起始:横頭 第三中手骨の掌側面
斜頭 有頭骨を中心とした手根骨
第2.3中手骨底掌側
停止:尺側種子骨 母指の基節骨底

【評価】

・視診では、左母指球は、痛みのない右と比較して萎縮していた。

母指球筋のうちでも、有頭骨、大菱形骨に付着する母指内転筋斜頭の委縮が強かった。

・筋力低下の有無は、よくわからなかった

・はじめは分からなかったが、左前腕掌側の筋(長掌筋)の膨隆が目立った。前腕回内外中間位で手関節を視診すると、手関節以遠が掌側に変位していることが、わかった。

長掌筋とは?

支配神経:正中神経
起始:上腕骨の内側上顆 前腕筋膜
停止:掌側腱膜
主な働き:手関節の掌屈
視診の仕方は?前腕前面の中央にあるので診ればわかる!!

・試みに、症例に「痛みの出る肢位」をとってもらい、母指をぐっと伸展させると痛みは消失した。

【臨床推論の再考】

「なんとなく足りない気がする」のはここだったのか!

  • 荷重による痛みの原因が、手関節横アーチのアライメント不良によるものである思っていたが、長掌筋の緊張による手関節以遠の掌側変位による(これもアライメント不良だが)可能性も出てきたが、、、、、、。
  • しかし、後者であれば、「母指を伸ばしても、荷重すれば痛い」はずである。そうでないのは、やはり、最初に立てた推論が正しいと思われる。
  • 手関節横アーチに関係する、母指内転筋斜頭の筋トレをして、痛みに変化があれば推論が正しいと言える。

【トレーニング】

①左母指内転筋(斜頭)の筋トレ   5分  /1日

母指の内転・掌屈。(母指に抵抗をかける)

*上記を5分間行ったところ、症例の痛みは消失した。やはり、手関節横アーチのアライメント不良が原因であった。

*しかし症例は、長掌筋がなぜ膨隆していたのか。

長掌筋は手関節屈筋支帯の緊張を高め、手関節アーチを形成する働きがある。長掌筋を用いることで、母指内転筋斜頭の機能低下を補っていたのかもしれない。

ハラプリの5分で臨床推論を立てよ⑨<終わり>

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