皆さん、元気にしていますか?
私ですか?怪しいおじさんではありません。
毎度おなじみのPTハラプリです。」
えっと、毎回同じ決めぜりふを言ってるんですが、解剖学と運動学から患者を診る、そこから逸脱しない、ということを心掛けています。
あ、分かっていただけておりますか、そうですか・・・・。
(なお、このブログは事実をもとにしておりますが、フィクションです。)
【症例】
さわやかな、5月某日の午後である。
帰宅の支度をしていたハラプリは、ふと、机の上の書類に目を止めた。
他施設で働く新人PTの黒八木さんからのメールを、誰かがプリントアウトして、ハラプリの机の上に置いたようだ。
文面は次のとおりである。
拝啓、ハラプリ先生。
患者さんのことで分からないことがあるので、ご相談させてください。
こんな患者さんがいるんです。
立ち上がりの時に左膝が痛い。
立ち上がりの時に痛みのためよろける。
左脚を上に足を組むことが多くなった。
朝起きると、必ず腹臥位になっている。
階段を降りるときは、必ず右下肢だけが外旋して接地する
靴底の右側の前足部と、左側のかかとの外側部分だけが擦り減る。患者は「左膝が痛くなってからこんな感じになった」という。
どうしたらいいでしょうか、教えてください。めえ~。
敬具
こういう訳の分からん手紙は、食べるに限る!!」
今週で何通目ですか?」
あれっ?・・・・ところで、何の用事があったのだろう?
忘れちゃった。
あ、マヤオ君、さっきの手紙のご用事なあにって、黒八木さんにメール送っておいてくれない?」
こういうやり取りが何回か続き、とうとうハラプリさんはお腹を壊した。
さあ、新人PTの黒八木さんとその患者さんが困っているだろうから、
5分で臨床推論を立て、評価し、トレーニングを立案してメールを返信してください!!
【臨床推論】
①左脚を上にして、脚を組むことが何を表しているのか。
膝の痛みと絡めて、まずはここから考えてみよう。
左脚を上に組むと、左股関節は屈曲、内転、内旋位になる。これは、大殿筋を引き延ばす肢位である。
②この肢位は、大殿筋を引き延ばすのと同時に胸腰筋膜を引き延ばすから、仙腸関節や下位腰椎を安定させる働きがある。だから、この症例は仙腸関節か下位腰椎に不安定性がある可能性がある。
③朝起きると腹臥位になっているのはなぜか。
腹臥位では腰椎は伸展位となる。
腰椎伸展は椎間関節を圧迫し、腰椎の安定化が図れる。
加えて、腹臥位では上前腸骨棘がベッドに当たり、腸骨には後傾方向のモーメントがかかる。相対的に、仙骨にとっては「うなずき方向」に動く。仙骨のうなずきは仙腸関節の安定化につながる。
<ハラプリのハラプリポイント>
仙腸関節の安定性にはいくつもの要因が関連しています。
Vleemingという人は安定化メカニズムを“form closure”と“force closure”という言葉で説明しています。
Form closureは、主に骨、関節面の形態により得られる関節の安定性を言います。
Force closureは、筋、腱、筋膜などの張力により得られる関節の安定性です。仙腸関節では広背筋や大殿筋、多裂筋、腹斜筋群、腹横筋などのほかに、靭帯系や、仙結節靭帯を介したハムストリングスもこれに含まれると言えます。
仙腸関節の安定性は、これらの均衡により保たれます。(仙腸関節だけでなく、他の関節だって同じです!!)
「痛みの臨床」でよく感じることは、「Form closureの破綻をForce closureで代償する事が多いなあ、ということと、その代償が痛みにつながってるなあ」ということです。
仙腸関節の動きの呼び方や、動きに伴う運動連鎖は下の図で確認してください。


④このように考えると、膝の痛みは仙腸関節の安定化のための働きと言えなくもない。
仙結節靭帯に付着するハムストリングスの作用である。
すなわち、仙腸関節の不安定性を、ハムストリングスが緊張することで代償的に抑えようとした。
その作用が下腿を後方にずらし、膝関節の痛みにつながった。
仙腸関節の評価を行ってみる必要がありそうだ。
⑤しかしながら、これでは「よろける」ことの説明にはならない。
「腰仙椎の不安定性と左膝の痛み」とで考えると、もう一つ、左腸脛靭帯➡左股関節外転筋➡左体幹側屈筋の筋連結が思い当たる(アナトミートレイン、ラテラルライン)。
すなわち、腰仙椎の安定化のための筋を使うために、左腸脛靭帯を過緊張させたのである。
それが、左膝の痛みにつながった。
立ち上がりでは大腿四頭筋や外側広筋の筋収縮が必ず起こる。
腸脛靭帯は、外側広筋の表層を走行するので、立ち上がりの際に伸長されて痛みが起きた。
(第13回、痛くて私もう走れない♥参照)

⑥症例はそれを避けるために、左外側広筋の収縮を反射的に抑えてしまい、左下肢への荷重がうまく行かず、よろめいた。
⑥階段を下りる時、必ず右下肢が外旋して接地するのはなぜか。
右下肢を階段の下段に下す際、支持脚は痛みの出る左下肢である。
この左荷重による腰仙椎の不安定性によるズレや、それによる左下肢の支持力低下を抑えようと、腰仙椎の安定化を図っていることが考えられる。
(脚を組むのと同じ理屈で)大殿筋伸張を行うために、左骨盤を後方回旋させ、左股関節の内転、内旋肢位を作っている。
すると、右骨盤は前方回旋するので、右下肢が内側に向かないように、右股関節の外転、外旋、足部の外転肢位をとった。
⑦靴底の右側の前足部と、左側のかかとの外側部分だけが擦り減るのはどういうことか。
踵の擦り減りは、歩行周期では左のLR時に起きていることは間違いない。
要するに、右蹴り出しの方が強いことを意味している。
右蹴り出しが強いから、右前足部が擦り減るのである。左足での蹴り出しは左腰仙椎のズレを助長する可能性があるので抑えた結果である。
⑧ところで、立脚後期では、骨盤が前傾する。

それを回避することから腸腰筋や内腹斜筋の低下が疑われる。それが腰仙椎の不安定化を招いていると考えた。
【トレーニング】
左膝関節の疼痛、よろめきに対して、仙腸関節もしくは下位腰椎の不安定性への代償的な対応が原因と考え、下記のトレーニングを指示した。
①内腹斜筋の筋トレ 30回/1日
②大腰筋の筋トレ 左のみ 30回/1日

なにせ、患者さんが目の前にいないから評価ができない。
黒八木さんには、仙腸関節の検査をやってもらわなきゃいけないなあ。
・・・・・って、メールしといてくれる?マヤオ君。」
多分、ハラプリ先生が直接電話した方が早いっす・・・・。」
ハラプリのハラが・・・・。ううう。」
仙腸関節の不安定性を調べるには、私が良く行う方法があります。
座位で、患者の腸骨稜から上後腸骨棘にかけて手を軽く添え、骨盤を自動的に前後傾させてみます。
仙腸関節に不安定性があると、腸骨の動きに対する仙骨の動きが「とても大きく」感じます。
同時に、腰部多裂筋の委縮の状況などもわかるので有用です。
他にも、仙腸関節由来の疼痛を評価する方法に、私がよく用いる整形外科的評価方法には、
パトリックテストやゲーンズレンテストあります。
今日は、パトリックテストを紹介します。

ハラプリの5分で臨床推論を立てよ㉑<終わり>